サメに免疫して特殊抗体をつくる
抗体医薬のボトルネックの1つは、抗体作製の困難さです。特に創薬標的になるような重要な役割をしているタンパク質は抗体がつくりにくいことがよくあります。また、最近は二重特異性抗体やCAR-Tなど抗体を使った高度な治療法がトレンドになってきており、技術革新について行くために特殊な抗体をつくることも求められています。そのため、製薬企業は新しい抗体作製技術に注目しています。
私たちは、サメで抗体をつくる技術の開発、高度化に取り組んでいます。
抗体がつくれない原因の1つは、免疫動物とヒトが進化的に近いことです。例えば、ヒトとマウスのタンパク質はほとんど同じ構造なので、抗体ができる箇所が限られてしまいます。そこで、抗体をつくる生き物でヒトから最も遠い生き物であるサメに注目しました。サメのタンパク質はヒトと大きく異なっているので、様々な抗体ができる可能性が高くなります。
また、サメを使えば、特殊なシングルドメイン抗体、VNARをつくることができます。VNARはラマやアルパカからつくるナノボディ(VHH)と同じような特性を持った抗体です。VNARのサイズは15 kDaと普通の抗体の1/10しかありません。非常に可塑性に富んでいて、お湯で煮ても常温に戻せば復活します。構造が単純なので、2つ以上のVNARをつないで二重、三重特異性抗体も簡単につくれます。