愛媛のサメでVNARをつくる技術

  サメで抗体をつくるには、サメの中の抗体をつくる仕組みを利用する以上、生きたサメを長期間飼って免疫する必要があります。ところが、サメはマウスのようなモデル生物とは違って繁殖や長期飼育のための研究があまり行われてきませんでした。サメの卵胎生や胎生といった複雑な繁殖方法はまだ全容が明らかになっておらず、人工繁殖はできません。また、水産試験場は食用にあまり適さないサメの飼育は行いません。水族館は観賞のための飼育は行いますが、応用研究は一般に行いません。生きた新鮮なサメをどこから入手するのか、果たして数カ月以上の長期間、飼育できるのか、指を食いちぎられたりしないのか、問題山積みの状態から研究は始まりました。
 
 なかなか解決方法が見つからないまま数年が経ちましたが、幸運にも、私たちは地の利に恵まれていました。愛媛県伊予灘にはエイラクブカというサメがたくさん生息していることがわかりました。エイラクブカは刃がほとんど尖っていない、砂地の底でエビなどを食べているおとなしい安全なサメです。エイラクブカは底引き網漁で獲れますが、あまり食用になっておらず安価なので、これまでほとんど注目されていませんでした。私たちは愛媛県水産研究センター栽培資源研究所の全面的な協力を得て、エイラクブカの安定入手ルートと、一年中飼育できる飼育技術、エイラクブカへの免疫技術、免疫したエイラクブカの抗体遺伝子からVNARをつくる技術などを確立しました。そしてこの愛媛のエイラクブカでVNARをつくる技術プラットフォームをFukabody Platform(フカボディプラットフォーム)と名付けました。
 

Fukabody Platformの強み

私たちは愛媛県産のエイラクブカを使ってVNARを開発する技術を確立しました。
これにより、
・ヒトから進化的に遠いサメでこれまで抗体をつくりにくかった標的の抗体をつくる
・通常の抗体と異なる構造をした創薬に適した低分子抗体・VNARができる
ようになります。
 マウスを使った抗体医薬開発では、できるだけ多くの種類の抗体の中から薬になる抗体を選び出すため、たくさんの系統のマウスから抗体を大規模につくります。エイラクブカは安価で安定供給ができるので、マウスと同等以上に非常に大規模な抗体作製を行うことができます。また、天然由来のエイラクブカは個体ごとに微妙に異なった遺伝的、免疫的背景を持つため、抗体の多様性が確保できます。この点は、VNARと似た低分子抗体をつくることができるラクダ科動物(ラマ・アルパカなど)を用いた免疫・抗体作製に比べて有利です。
 
 
 

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