プロテイン・アイランド・松山国際シンポジウム
ポスターデザイン

2016.May.4
竹田浩之

 どういった経緯かは忘れましたが、愛媛大に赴任してからずっとプロテイン・アイランド・松山(PIM)のポスターデザインに関わらせていただいています。特にここ2、3年はちょっと捻ったネタを放り込むようにしていますが、割と好評をいただいているようで嬉しい限りです。
 さすがにいちからデザインする時間的な余裕は私にはありませんので、ポスターデザイン自体は基本的に松山の印刷業者(セキ株式会社)さんにお願いしています。ただし、サイエンスがわかるデザイナーさんを松山で見つけることは難しいので、コンセプト立案と科学的な素材提供は私が行い、それを元にデザイナーさんに仕上げてもらう、という分業で進めています。毎年、4月から5月に打ち合わせを始め、1ヶ月程度で完成させるのですが、毎度、駄目出しを何度も行うことにはなるので、たいがい時間との戦いになってしまいます。
 
 これまでに関わったポスターを以下にご紹介します。ご笑納ください。
(画像はクリックすると拡大します)


 

2011年

割と早い段階からタンパク質の立体構造をデザインに入れてもらおうという方向性を決めていました。実は別のタンパクで考えていたのですが、当時センター長だった遠藤先生からこれがいい、と押し付けお題をいただいたのがこのRPA複合体です。ウィスコンシン大でコムギ無細胞系で合成したタンパクをX線結晶構造解析したタンパク質です。角度を変えて画像を用意していたものをいくつか提供したのですが、かっこよくレイアウトしてもらえました。以降、3年間立体構造シリーズが続きますが、個人的にはこの年の作品が色合い、構成など一番出来が良いと思います。

 

 
 

2012年

そういえば2012年はPIM10周年ということで大御所をたくさん招聘した年でした。そのうちの一人に遠藤先生の旧友のHarry Noller先生がいたので、Harryの解いた構造を、ということでリボソームを使うことになりました。しかしいかんせん巨大な分子なのでごちゃごちゃ感がどうしても拭えず。
制作過程で覚えているのは、真ん中あたりから伸びている波線、これはRNAを示していますが、これが最初の方の案では二重線になっていたんですね。確か、澤崎先生からRNAなら二重鎖はまずいんじゃないの、と指摘をいただいて、すぐに修正してもらいました。こういう科学的考証はとても大事ですが、デザイナーさんにはお任せにできないので大変です。
 

 2013年

この年は、GPCRのX線結晶構造解析で有名な京都大学小林拓也先生にご講演いただいたので、HRH1の構造を使ったんでした。でも、何というか・・・残念ですが、迷走感が・・・。特に、背景で中央から左下に伸びているレールガンみたいなもの??サイクロトロン+ビームライン?さらに、GPCRは薬のターゲットだからここら辺のポケットに薬っぽいものを置いて、とか言ったような記憶はあるんだけど、そこにはガシャポンにスーパーボールを詰めたみたいなものが鎮座。薬?なのか?
うまくコンセプトが伝わらない(=コミュニケーション不足)と、こうなってしまう、という残念な例です。しっかり修正ができなかった私の力不足が敗因です。小林先生ごめんなさい。

 
 
 
 

タイトル
How could you make this "proteoliposome" ?

2014年

3年間続けて同じようなコンセプトのポスターだったので、自分で飽き飽きしてしまって、この年からガラッとコンセプトを変えることにしました。
コンセプトは「無細胞系合成プロテオリポソーム」です。フジッリというパスタをトランスメンブレンドメインに見立てて、膜タンパク質に仕立てています。パスタは本物を写真で撮ってもらったもの、パスタをつなぐループはCGで描いてもらいました。小麦粉でできているパスタを使っていることで、無細胞合成した膜タンパク質を示しています。実はパスタは7本あり、GPCRがモチーフです。2013年のリベンジですね。オリーブオイルと皿は広告代理店で持っていた著作権フリー画像ストックから見つけてもらいました。一枚絵ではなく、他にもいろいろ載っていた写真の一部を引き延ばしたものだそうです。よくこちらの意図(お皿に油かソースを円形に垂らしたものが欲しい、とかポンチ絵片手に無理を言いました)にあった絵を探してくれました。もちろん、オリーブオイルは人工脂質小胞、リポソームを表しています。 
最終的にこの作品はコンセプトとデザインがバッチリ合った良いものに仕上がりました。この年のデザイナーさんには色々と無茶を聞いてもらい、一番ダメ出しの回数もかけましたが、その甲斐が合ったと思います。最初の案ではリポソームのど真ん中にGPCRが配置されていて、どうしようかと思いましたが・・・。
今では自分の研究発表のアイスブレイクによくこの絵を使わせてもらっています。あまりに科学的な要素が少なくて何のイベントかわからない、というクレームがついて、慌ててピペットとエッペンの写真を撮って合成してもらいましたが、それもご愛嬌ですね。
 

2015年

この年のコンセプトは「鬼退治」でした。妖鬼=病気、鬼退治をするもむのふ=研究者、というふうに見立てて、創薬研究で病を克服する、というPROSの活動アピールをしたいと考えたのです。
そのコンセプトに合わせて、著作権フリー画像を画像ライブラリから探してもらいました。元絵は太平記英勇傳 堀尾茂助吉晴 (歌川 芳幾) 。やっつけられているのはイノシシですね。グロテスクすぎないかっこいい絵面で、イノシシの体表や人物の衣服の面積が大きく家紋を張り込みやすかった、というのが選定理由です。
それぞれの立場をわかりやすくするためにライフサイエンスと病気をモチーフにした家紋を衣服や毛皮にそれぞれ張り込んでもらっています。ちなみに家紋と小麦の穂は私が描いて提供したものです。自然に張り込んでね、とデザイナーさんにお願いしたところ、あまりに自然ないい仕事をしてくれたので、ポスターができた当初、誰も家紋に気づかなかったというオチがつきました。元絵のかっこよさにコンセプトが負けたんだということでしょうか。初見で意図をくんでもらえたのは、唯一、元PROS事務課長の武田さんだけでした。さすが。

 

 
 

 
タイトル
Mighty scientist(s) in Ehime is fighting with an evil of deseases using protein sciences as his weapon.
(媛の国の偉丈夫、蛋白質科学をもちて疫病神とかく戦えり)

2016


 

タイトル
Array Dance (Bait & Prey)

プロテオ創薬科学部門で整備しているヒトプロテインアレイがテーマです。ダンサーのシルエットを形作るドットの一つ一つにタンパク質を収めています。「数多くのタンパク質で身体はできてる」ということを言いたかったわけですね。ダンサーをモチーフにしたのは身体性を表すのに適していると考えたからです。ちなみに右手の上にあるタンパク質はユビキチンです。ユビキチンをベイトに相互作用するタンパク質をアレイからスクリーニングしているところ・・とか個人的には想像して楽しんでいます。
 PDBからダウンロードした大量のタンパクの画像からアウトラインを抽出してドットに張り込むという地味な作業を快く引き受けてくれたデザイナーの香川さん、ありがとうございました。立案段階ではタンパク質のリボンモデルを貼り付けたら血管みたいで気持ち悪くなるんじゃないか?と心配されましたが、なんとか大人っぽくまとめてくれました。