がん抑制タンパク質を分解誘導するE3リガーゼの同定
Discovery of E3 ligase degradating tumor-suppressor protein

コムギ無細胞系はユビキチン化タンパク質研究に適している

ポリユビキチン鎖を作製可能リン酸化、メチル化、糖鎖付加など、様々なタンパク質の翻訳後修飾が知られていますが、その中でもユビキチン化は最もタンパク質の機能を多様化させる翻訳後修飾かもしれません。しかし、細胞内には数分以内にタンパク質を完全に分解できるプロテアソームがあるため、遺伝子導入を行うとユビキチン化されたタンパク質や、E3リガーゼは自己ユビキチン化反応により分解されてします。そのため、細胞を用いてユビキチン化行うことは難しいのが現状です。コムギ無細胞系はプロテアソームを含んでいないため、分解シグナルのK48ポリユビキチン鎖が付加されたタンパク質も安定です。これは、ユビキチン化タンパク質の機能解析を行う上で、非常に有利な点となっています。

がん抑制タンパク質を分解誘導するE3リガーゼの探索・同定

ユビキチン化システムがん抑制タンパク質が正しく機能していると、ほとんどの場合、細胞のがん化を強力に抑制することができます。がん細胞の多くでは、これらがん抑制タンパク質の機能不全が起こっています。最近、がん細胞の中には、がん抑制タンパク質がユビキチン化され直ちに分解している例があることがわかってきました。特定にE3リガーゼががん抑制タンパク質を分解誘導していたのです。そこで我々は、コムギ無細胞系の利点を活かして、がん抑制タンパク質を分解誘導するE3リガーゼの探索・同定を行っています。将来、新たなに見つかるE3リガーゼが抗ガン剤の標的となるかも知れません。

がん患者特異的自己抗原タンパク質の同定
Discovery of cancer-specific autoantigens inducing in cancer patients

がん患者の血清中には特異的な自己抗体が誘導されることがある

乳がん自己抗原プロファイリング最近の知見では、ある割合のがん患者血清中に自己抗体が誘導される例があることがわかってきました。我々はこれまでに、自己抗体探索に適したタンパク質ライブラリーを構築してきたので、がん患者血清中の抗体と反応するタンパク質を網羅的に同定してきました。その結果、乳がん患者血清や前立腺がん患者血清中に、種々のがん特異的に誘導される自己抗体を見つけました。これらを上手く用いれば、乳がんや前立腺がんの診断マーカーになる可能性を期待しています。現在、より大規模な形で評価しています。

がん特異的自己抗原の中には細胞増殖に関与するタンパク質がある

細胞増殖に対する自己抗原発現抑制の影響p53という非常に有名ながん抑制タンパク質に対する抗体(抗p53自己抗体)が、がん患者の血清中に誘導されます。我々が見つけた自己抗原タンパク質もp53と同様に,細胞のがん化に関与している可能性を考え調べてみたところ、いくつかの自己抗原タンパク質は、ある種のがん細胞株で発現量が高く、それらの自己抗原タンパク質の発現を抑制すると、がん細胞株の増殖が停止します。がん特異的自己抗原タンパク質は、ひょっとするがん促進タンパク質かも知れません。



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がん抑制タンパク質

細胞が、がん化する時の最後の砦。がん抑制タンパク質さえ正しく機能していれば、細胞ががん化する前に細胞死を誘導するため、ほとんどの場合で細胞のがん化を防ぐことができると考えられている。現在、20種類ほどのがん抑制タンパク質が知られている。p53タンパク質は、代表的ながん抑制タンパク質。

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ユビキチン

ユビキチンは76個のアミノ酸からなるタンパク質で、ほとんどの真核生物で配列が保存されている。タンパク質のユビキチン化はタンパク質分解、DNA修復、翻訳調節、シグナル伝達などさまざまな生命現象に関わる。一般的なユビキチン鎖ではユビキチンC末端のGG残基と7個のリジン残基(K6, K11, K27, K29, K33, K48およびK63)のいずれかの間でイソペプチド結合する。また、LUBACによるC末端とN末端が連続的につながった直鎖状ユビキチン鎖の存在も知られている。

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ユビキチン化

タンパク質は、リン酸化やメチル化、糖鎖付加など様々な翻訳後修飾を受けて、機能制御されています。ユビキチン化はその中でも特殊で、タンパク質をユビキチン化する場合、E1→E2→E3リガーゼと3種類の酵素を経由して、タンパク質にユビキチン分子を付加します。この付加をユビキチン化といいます。E1やE2の特異性は高くなく数も少ないため、タンパク質がユビキチン化されるためには、特定のE3リガーゼと結合する必要があります。ユビキチン化は、タンパク質の分解、局在変化、複合体形成誘導など、非常に多様な機能変化を誘導します。

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ユビキチン・プロテアソーム経路

K48ポリユビキチン化されたタンパク質を26Sプロテアソームが特異的に認識、フォールディング解除後、ペプチドに分解する。酵母からほ乳類まで高度に保存されており、細胞周期タンパク質を始めとする多くのタンパク質のダイナミズム、ひいては細胞の恒常性に関わる。コムギ胚芽にはプロテアソーム系を含むタンパク質分解系がなく、コムギ無細胞タンパク発現系ではプロテアソーム経路を介したタンパク分解はおこらない。

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E3リガーゼ

ヒトの場合で、1000種類以上あるといわれています。E3リガーゼは、E2タンパク質と基質蛋白質の両方と結合する能力があり、E3リガーゼ上でユビキチン化が行われる。そのため、ユビキチン化の特異性はE3リガーゼで決まります。目的のタンパク質がユビキチン化される場合、特異的なE3リガーゼを見つけ出す必要があります。しかし、細胞内には様々なE3リガーゼが働いているので、目的タンパク質と特異的なE3リガーゼを見つけ出すことは非常に困難です。

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自己抗体

元々は自己の細胞や組織に反応する抗体として定義されてきた。突き詰めると、自己が産生した分子と特異的に結合する抗体のことである。関節リウマチなどの自己免疫疾患を引き起こす因子として、考えられている。しかし近年、様々な疾患においても自己抗体が誘導されている可能性が示唆されている。自己抗体の多くは、構造認識抗体であるという報告例もある。

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自己抗原タンパク質

自己抗体と反応する分子をいう。その分子がタンパク質の場合、自己抗原タンパク質と呼ぶ。

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