ウイルス感染・複製に関与する宿主タンパク質の探索
Discovery of host proteins relating virus infection and replication

HCVプロテアーゼ(NS3/4A)もしくはHIVプロテアーゼによる切断されるプロテインキナーゼの探索・同定

細胞はウイルス感染に対抗する機構として、抗ウイルス機構を持っており、細胞内でウイルスの増殖を抑制します。そのスイッチの役割の一部を担っているのがプロテインキナーゼです。プロテインキナーゼは、タンパク質をリン酸化することにより、細胞内の様々なシグナル伝達経路のオン・オフをします。ウイルスプロテアーゼが、このプロテインキナーゼを切断して、複製や増殖に適した環境を作り上げている可能性が十分考えられるため、我々は、HCVとHIVを対象に、それらのウイルスプロテアーゼによる切断されるプロテインキナーゼを探索・同定し、ウイルス感染と宿主プロテインキナーゼの関係の解明を目指しています。

HCVプロテアーゼ(NS3/4A) もしくはHIVプロテアーゼによる切断される1回膜貫通蛋白質の探索・同定

ウイルスの受容体やウイルス粒子形成には膜タンパク質を利用します。また、HCVの様に細胞内の膜画分で複製するウイルスもいます。そのため、ウイルス感染において、膜タンパク質は非常に大きな役割を担っています。ウイルスプロテアーゼが、膜タンパク質を切断して、複製や増殖に適した環境を作り上げている可能性が十分考えられます。ただ、膜タンパク質の合成や膜タンパク質の機能を評価する技術はまだ開発途中であるため、膜タンパク質の中でも合成や機能解析が比較的しやすい、1回膜貫通タンパク質をターゲットに、HCVとHIVのプロテアーゼによる切断される1回膜貫通タンパク質を探索・同定し、ウイルス感染と宿主1回膜貫通タンパク質の関係の解明を目指しています。

HCVタンパク質と相互作用するRING型E3リガーゼの探索・同定

ウイルスタンパク質が抗ウイルス機構に関する宿主タンパク質と相互作用して、分解している例がいくつか報告されました。細胞が持つ主要な分解機構はユビキチン化システムです。ユビキチン化システムの基質特異性は、E3リガーゼによって行われます。つまり、E3リガーゼと相互作用する特定のタンパク質のみがユビキチン化されます。ウイルスタンパク質が、E3リガーゼと相互作用して、複製や増殖に適した環境を作り上げている可能性が十分考えられるため、我々は、HCVタンパク質と相互作用するE3リガーゼを探索・同定し、ウイルス感染と宿主E3リガーゼの関係の解明を目指しています。

ウイルス−膜受容体相互作用再構成
Reconstitution of virus-membrane receptor interaction

in vitroでのウイルス−膜受容体の再構成は大きなチャレンジ

ウイルス感染の最も初期段階は、細胞膜上の膜受容体蛋白質との相互作用である。驚いたことに、21世紀の現代においても、膜受容体が見つかっていないウイルスは多い。例えば、B型肝炎ウイルスやデングウイルスが感染に必須な膜受容体は、見つかっていない。細胞の膜受容体をイメージすると、極微量で数千種類の膜受容体が細胞表面に存在しているという感じです。その中からウイルスと相互作用する膜受容体を探すことは至難です。我々は、プロテオリポソームとして膜タンパク質を人工膜(リポソーム)上に合成することに成功しました。そこで、現在、プロテオリポソーム型のウイルス膜受容体を構築して、ウイルスとの相互作用を解析できる技術を開発しています。この技術が完成すれば、プロテオリポソーム型膜受容体タンパク質ライブラリーを構築して、ウイルスの膜受容体の探索・同定を行う予定です。

ウイルス−膜受容体複合体のゆくえ

ウイルスと相互作用した膜受容体はどの様に、細胞内に取り込まれ、ウイルス感染に使われているのでしょうか? 上記のin vitroでのウイルス−膜受容体の再構成ができれば、それを解析するための蛍光プローブができます。さらに、現在、我々が開発を進めているプロテオリポソームを細胞と融合する技術を組み合わせると、細胞表面でウイルスと相互作用した膜受容体の動態を、リアルタイムで解析できる技術へとつながります。そうすれば、また一歩、ウイルス感染機構の解明に近づきます。



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C型肝炎ウイルス(HCV)

日本に約200万人の感染患者が存在する。非常に重篤な肝硬変、肝細胞癌を発症させることから、がんウイルスの1種。膜受容体として4回膜貫通領域をもつCD81を含め、4種類が報告されている。

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ヒト免疫不全ウイルス(HIV)

人の免疫細胞に感染することにより、最終的にエイズ(AIDS)として知られる後天性免疫不全症候群を発症させる。膜受容体としてCD4-CCR5かCD4- CXCR4が報告されている。

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ウイルスプロテアーゼ

HCVやHIVなどの一本鎖ゲノムをもつウイルスは、まず大きなタンパク質を合成し、ウイルスがもつプロテアーゼ(タンパク質切断酵素)で複数箇所切断して、機能をもったタンパク質に仕上げます。そのため、ウイルスプロテアーゼをターゲットにした阻害剤は、非常に効果的な抗ウイルス薬剤となっています。
 近年、ウイルスプロテアーゼは、自身の蛋白質以外に宿主タンパク質を切断して、複製や増殖に適した環境を作り上げているという報告が増えています。

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プロテインキナーゼ(PK)

プロテインキナーゼは、タンパク質をリン酸化することにより、細胞内の様々なシグナル伝達経路のオン・オフをします。ヒトでは約500種類のプロテインキナーゼが見つかっています。抗ガン剤のターゲットの多くは、このプロテインキナーゼを対象としています。

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1回膜領域タンパク質(sTMP)

膜タンパク質は、膜貫通領域の数を指標に分類されます。1分子のタンパク質内に1回だけ生体膜を貫通できる領域をもつタンパク質のことをいう。インシュリン受容体やサイトカイン受容体、増殖因子受容体など非常に重要な受容体が含まれる。

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ウイルス膜受容体

ウイルスが細胞内に侵入するために必要とする膜蛋白質。1回、4回と7回膜貫通領域をもつ膜蛋白質が報告されている。B型肝炎ウイルスやデングウイルスなど非常に重篤な疾患を引き起こすウイルスでさえ、ウイルス膜受容体は未同定である。

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