膜タンパク質...この未知なるタンパク質の合成と機能解析
Membrane protein... synthesis and functional analysis of the unknown protein

創薬ターゲットとして、細胞膜に存在する膜タンパク質は非常に重要です。なぜなら、ホルモンや神経伝達物質を受け取る“情報受容体”や、代謝物質を細胞内・外に運ぶ“トランスポーター”が含まれるからです。細胞間を行き来する化学物質の多くは、膜タンパク質に結合することにより、例えば、食欲や気分を制御することが知られています。そして、市販されている薬の約半数は、膜タンパク質に結合してその薬効を発揮します。何となく、重要な感じが理解していただけたでしょうか? しかし、タンパク質研究の中で、膜タンパク質の解析は本当に遅れています。なぜなら、膜タンパク質を生きた細胞から、機能を保持したまま取り出す方法は非常に困難です。また、従来のタンパク質合成法を用いても、活性をもった膜タンパク質複合体を調製するのは至難の業だからです。簡単にいうと、活性をもった膜タンパク質が手に入らないのです。
 私達は、コムギ無細胞技術を基盤に、ヒトやマウスの膜タンパク質の活性を保持した状態で合成できる技術の開発を目指して、日々、創意工夫&試行錯誤しています。夢は膨らむ一方ですが、膜タンパク質を自由に合成できるようになれば、薬の開発が飛躍的に進むことが期待されているのです。これから、苦難の道が始まりますが、生命現象の本質に繋がり、そして社会が求める研究テーマでしょう。

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膜タンパク質は膜環境を好む?
Does membrane protein prefer membrane environment ?

 膜タンパク質は疎水領域を多く含んでおり、その疎水領域が細胞膜や細胞小器官の膜の中に上手く埋め込まれています。つまり、膜タンパク質は、名前の通り、膜があれば、安定にその膜の中に局在しているようです。そして、ひとつの方法論として、最近、膜構造を人工的に作りだし、無細胞系と組みあわせることで、積極的に膜タンパク質をその人工膜に集めてしまおうというアプローチが試みられています。中でも、コムギ無細胞系と組み合わせた論文も出始めており、今後、積極的に技術革新が進む可能性があります。
 図に示したように、膜タンパク質を人工膜に局在させ、そこにホルモンなどの細胞間を移動する化学物質を加えることにより、膜タンパク質の活性化が起こり下流の細胞内シグナル伝達のスイッチが“オン”になる、それが私達が目指す、機能解析の方向性です。より汎用性の高い方法論を開発すべく、ヒトやマウスの膜タンパク質と、日々、格闘しています。まあ本当に、難儀な奴らです。

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膜タンパク質の精製法
Purification method for membrane protein.

L膜タンパク質の精製はとても難しいものです。既存のアフィニティータグ(特異的親和性タグ)は、全て親水性を前提にしています。可溶化していないものは、いくら特異性が高くてもその親和性能を発揮できません。私達は、その現実に直面し、アフィニティータグを用いない、新しい膜タンパク質の精製法を考えました。それが、リポソームに取り込まれた膜タンパク質(プロテオリポソーム)を遠心分離により、そのまま回収する事です。この手法の利点は、精製タグを必要としない、膜タンパク質を膜環境のまま回収できる、プロテオリポソームとして機能解析が可能、などがあります。

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抗GPCR抗体の作成法
Preparation method for anti-GPCR antibody.

 実は、細胞表面の膜タンパク質を特異性高く高感度に認識できる抗体は多くありません。特に、ヒトでは重要なシグナル伝達経路のスイッチの役割をする、GPCR(Gタンパク質共役型受容体)という膜タンパク質の抗体作製を進めています。GPCRの良い抗体がないことに関して、様々な理由が考えられるのですが、私達は特異的な構造をもった膜タンパク質抗原を免疫することができれば、良い抗体ができると考えました。そこで、GPCRをコムギ無細胞系でプロテオリポソームとして合成・回収し、そのGPCR-プロテオリポソームを直接、マウスやラビットに免疫します。そうすると、ある程度構造を持ったGPCRを免疫できるのではないかと考えています。
 もう一つの工夫は、抗体を選抜する技術です。プロテオリポソーム作製時に、ビオチン化した脂質を少し加えておくと、ビオチン化プロテオリポソームを作製できます。それを用いると、ビオチン化GPCR-プロテオリポソームができあがり、AlphaScreen技術を用いて、構造を認識する抗体を効率良く選抜することができます。

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膜タンパク質受容体の再構築
Reconstitution of membrane receptor protein.

 細胞は、脂質二重膜により外部と内部を隔離することにより成り立っています。そのため、細胞外部環境を感知し応答する膜受容体機構は、セントラルドグマや代謝機構と並ぶ、最も基本となる細胞の構成成分といえます。しかし、試験管内で、リガンド応答 → 相互作用蛋白質の活性化 → 下流蛋白質の化学的修飾といった一連の膜受容体膜機構を再構築できた例はなく、膜受容体機構の生化学的な解析はほとんど進んでいないのが現状です。私達は、リポソーム(人工膜)添加型コムギ無細胞蛋白質合成系を基盤に、リポソーム上に膜受容体、リポソーム内部にアダプター因子およびその下流の基質蛋白質を内包したシステムを創作し、in vitroで膜受容体機構の再構築を目指す技術開発しています。

ウイルス受容体の再構築
Reconstruction of virus receptor

 ウイルスは、細胞表面上の膜タンパク質受容体と結合した後、細胞内へと侵入します。私達は、リポソーム(人工膜)添加型コムギ無細胞蛋白質合成系を基盤に、リポソーム上に膜受容体を展開した新しいシステムを創作し、in vitroでウイルスと膜タンパク質受容体の相互作用機構の再構築を目指す技術開発しています。この技術は、B型肝炎ウイルスなど、まだ膜受容体タンパク質が未同定な研究にも応用可能だと期待しています。