ドラッグスクリーニングって、何?
What is the drug screening ?

現代の創薬の流れ手塚治虫氏のブラックジャックという漫画を読んだことはありますか? 
ホンの少し前の時代まで、病気を治すには、手術が最も有効な手法でした。今でも少なくない数の病気は手術に頼っていることは事実です。しかし現在、多くの病気が外科手術なしの薬剤投与で治癒できる時代となりました。その様な事例が多くなればなるほど、薬剤開発の重要性がどんどん理解される様になってきました。そして同時に、病気のほぼ全ては、タンパク質の何某らの異常により引き起こされることが分かってきました。つまり、薬剤標的はタンパク質なのです。
 ヒトのゲノムが簡単に読める時代となり、病気の原因となるタンパク質変異が沢山発見されています。しかし、まだまだそれらのタンパク質を標的とした薬剤開発は進んでいません。薬剤開発の最初のステップは、ドラッグスクリーニング(薬剤探索)と呼ばれています。様々なタンパク質を対象としたドラッグスクリーニングが進めば進むほど、様々な病気に対する薬剤開発が進む可能性が高まります。そのため、精度が高い、つまり偽物を選ばないドラッグスクリーニングの方法が望まれています。
 また、ドラッグスクリーニングは、病気の治療の目的だけではなく、細胞や個体における特定のタンパク質の機能を理解するための非常に有用なツールとなります。この様な研究手法は、近年、ケミカルバイオロジーと呼ばれています。その意味でも、ドラッグスクリーニングはとても大切な研究テーマといえます。

薬剤探索におけるコムギ無細胞技術を使う利点
Adovantages of Wheat cell-free technology for drug screening

 現在、コムギ無細胞技術を用いて多くの薬剤探索が進んでいます。何故?

コムギ無細胞系は、標的タンパク質合成と薬剤スクリーニングが一体化しているドラッグスクリーニングには、大きく2つの方法があります。1つが生きた細胞を使う方法、そしてもう1つが、試験管内で標的タンパク質の機能を評価できる系(アッセイ系と呼びます)を構築して、試験管内で薬剤探索を行う方法です。現在の主流は、生きた細胞を用いる方法です。生きた細胞に標的タンパク質の機能が発揮され、その活性を様々な手法を用いて評価することができます。とても強力な手法で、多くの有用な薬剤がこの方法で発見され、我々へ渡される薬剤の多くがこの手法によるモノです。しかし、タンパク質の機能は多様です。全てのタンパク質が生きた細胞を用いて評価できるわけではありません。そして生細胞内に非常に多くのタンパク質が機能しているため、標的タンパク質以外のタンパク質への影響と区別することが難しく、開発段階の後期になって初めて標的タンパク質以外への重大な影響に気付くこともあります。そこで生きた細胞を使わない、試験管内で標的タンパク質だけを取りだし、できるだけシンプルなアッセイ系とし、標的タンパク質の機能を評価することにより薬剤探索を行う手法の開発が進められています。
 コムギ無細胞系は、まさに試験管内で標的タンパク質を合成する技術です。そして、Substrate screeningの項目で説明した様に、コムギ無細胞系を基盤として様々なタンパク質機能を試験管内で検出することができていました。そこで、我々は、コムギ無細胞系で合成した標的タンパク質を直接用いて、ドラッグスクリーニングできる技術の開発は有用ではないかと考えました。実際、この予想はアタリました。基質探索やタンパク質機能を評価した手法をそのまま用いて、薬剤探索することができることが分かってきました。つまり、基質を発見したら、同じアッセイ系を用いて、薬剤探索が可能なのです。簡単でしょ? そのため現在、コムギ無細胞系を用いて、様々な標的タンパク質機能を阻害する薬剤探索に成功しています。

LinkIcon関連論文

タンパク質ータンパク質間相互作用を阻害する薬剤探索技術
Drug screening technology based on the inhibition of protein-protein interaction (PPI)

タンパク質ータンパク質間相互作用(PPI)検出原理多くのタンパク質は、別のタンパク質と相互作用し複合体を形成して機能します。そのため、タンパク質の複合体形成を阻害することができれば、タンパク質機能を抑制することができます。しかし、細胞を用いた薬剤探索技術としてタンパク質ータンパク質間相互作用を阻害する薬剤にむけたアッセイ系の構築が難しく、これまでその様なタンパク質ータンパク質間を阻害する薬剤開発は難しいと考えられてきました。しかし、がん抑制タンパク質のp53ーMDM2の相互作用を抑制する薬剤開発が成功した事例が報告され、タンパク質ータンパク質間阻害剤探索が注目される様になってきました。非常に高感度かつ少量でタンパク質ータンパク質間相互作用を検出できるコムギ無細胞技術とAlphaScreen技術を融合した手法(Substrate screening参照)は、タンパク質ータンパク質間阻害剤探索にとても適しています。

核酸(DNA/RNA)に結合するタンパク質を阻害する薬剤探索技術
Drug screening technology based on the inhibition of DNA/RNA-binding protein

 DNA/RNAータンパク質間相互作用(NPI)検出原理転写因子などの特異的なDNAやRNAに結合するタンパク質の機能を阻害する薬剤開発は、生細胞を用いたアッセイ系の構築が容易でないため、あまり進んでいませんでした。我々は、AlphaSceen技術を基盤に核酸とタンパク質との相互作用を簡便に検出できる技術開発に成功しました。そのため、このアッセイ系を用いることにより、例えば、ある特定のゲノムDNAに結合する転写因子に対する阻害探索を行うことが可能となりました。

LinkIcon参考文献 OpenAccessLinkIcon論文概要:AGIA tag system 

タンパク質の切断を阻害する薬剤探索技術
Drug screening technology based on the inhibition of protein cleavage

タンパク質切断検出原理 タンパク質は、プロテアーゼと呼ばれる酵素により、切断されます。ヒトゲノム上に、プロテアーゼは500種類ほどあるといわれています。私達は、プロテアーゼによる切断を検出ために、N末端にFlagタグ、C末にビオチン化した基質タンパク質(NCタグタンパク質)をデザインしました(Substrate screening参照)。このアッセイ系を用いることにより、ウイルスや細胞がもつプロテアーゼを阻害する薬剤探索が可能です。

LinkIcon関連論文CASP3LinkIcon関連論文CASP8

薬剤探索におけるコムギ無細胞ーAlphaScreen融合技術の有用性と問題点
Advantage and disadvantage of a cell-free/AlphaScreen combined technology on the drug screening

 コムギ無細胞技術とAlphaScreen技術の融合コムギ無細胞系では、簡単にビオチン化することができるため、AlphaScreen技術と融合することにより、様々な生化学的解析が可能です(Substrate screening参照)。また、これら一連のアッセイ系は、液体を単に分注するだけなので、自動分注機によりハイスループット化ができます。実際、今では、1日に4万回のアッセイが可能です。薬剤探索には、化合物ライブラリーが必要なのですが、東京大学創薬機構から分与して貰っています。そのため、薬剤探索が非常に簡便にできまう。
しかし問題点が2つあります。1つは、コスト。1つのアッセイでは100円以下でできるのですが、それが1万アッセイになると100万円となります。もう1つは、AlphaScreen技術は分子間の相互作用を基盤とした検出技術であるため、膜に埋め込まれ小さな分子を膜の外側と内側に通過させる輸送体(トランスポーターやチャネルなど)のタンパク質の活性を検出することは困難です。輸送体タンパク質は創薬標的として、非常に重要なので、今後、新しい技術を開発する必要があります。

LinkIcon関連web

澤崎研における薬剤探索の現状
On-going drug developments in Sawasaki's Lab

植物への乾燥耐性を誘導するアブシジン酸(ABA) 私達の研究室では、上記の手法を用いて、様々な薬剤開発を進めています。
具体的には、
1)NF-kBシグナル阻害剤
2)穀物の干ばつ耐性獲得農薬
3)T細胞分化抑制剤
などです。
今後も、様々な種類の薬剤を開発して、研究用ツール、そして将来的にはヒトに役立つ薬剤開発に繋がることを信じて、日々、研究を進めています。