無細胞合成タンパク質を直接細胞へ導入することによるタンパク質機能解析
Protein function analysis using direct protein delivery into the cells

プロテオリポソーム−細胞融合による膜タンパク質機能解析

膜受容体タンパク質は、細胞への遺伝子導入による解析においても、導入遺伝子由来の組換えタンパク質が小胞体で留まってしまい正しく細胞膜上に局在させることが難しい等、細胞生物学的にも解析が容易ではないのが現状である。我々は、コムギ無細胞タンパク質合成技術を用いて膜タンパク質をプロテオリポソームとして回収することができました。そのプロテオリポソームと細胞を融合することにより、とても簡単に目的の膜タンパク質を細胞膜上に局在させることに成功しました。個々の細胞に導入されている膜タンパク質量も、概ね揃っており、従来法の遺伝子導入より、均一に膜タンパク質を細胞表面上に揃えることができています。現在、この技術を使って、細胞のシグナル伝達経路の解明に取り組んでいます。

導入タグを用いた細胞へ直接導入技術の開発

我々はタンパク質を自由に合成できる技術を持っている。そのため、細胞透過性ペプチド(CPP)を付加したタンパク質を自由に細胞内に導入することが可能です。遺伝子導入では、数十種類のタンパク質を同時に発現させることは難しいけれど、CPP-タンパク質導入なら、シグナル伝達経路一式の導入も可能なので、細胞内伝達経路を自由に制御できる可能性を秘めています。この技術により、より定量的にシグナル伝達経路を解析することができます。

患者由来タンパク質の調整と評価
Protein production and its validation from patient’s gene

患者がもつ遺伝子からのタンパク質合成と薬剤評価

近年、特定の分子を狙い撃ちした分子標的薬の開発が盛んである。しかし、標的分子がタンパク質の場合、変異を起こすと薬剤の効果が著しく低下して薬が効かなくなることがある。これを薬剤耐性と呼ぶが、がん細胞内の遺伝子やウイルス遺伝子は変異が早いため、薬剤耐性が出やすいため大きな問題となっている。患者のタンパク質を用いて評価することができれば問題ないが、薬剤評価できるほどのタンパク質量を患者から直接取り出す事は不可能である。そのため、個々の患者遺伝子の変異と薬剤耐性をタンパク質レベルで評価することは難しいのが現状である。
 我々の技術は鋳型さえあればタンパク質を自由に合成できるため、患者から分子標的薬のターゲットとなっているタンパク質の遺伝子をPCR法などで増幅後、鋳型構築を行い、コムギ無細胞系でタンパク質に変換し、薬剤を評価する技術の開発をしている。この技術ができれば、自分の体内にいるウイルスや自分の組織内の遺伝子からコムギ無細胞系を経由してタンパク質を合成し、種々の薬剤と反応させた結果を元に、最も薬効を示す薬を選択できる診断法への道を開くものと期待している。



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リポソーム

人工膜であり、現在コスト的に安価なダイズ由来のアゾレクチンと、フォスファチジルコリンを主成分とした卵黄由来脂質が基本として用いられている。GPCRの構造安定化にはコレステロールが必要であるということや膜内のATPaseの活性化に未知だった脂質が必要であったという知見から、おそらく、膜蛋白質の機能・構造解析組成には、その組成が非常に重要であるといわれているが、生物がもつ脂質の種類が膨大なため、動物膜蛋白質の機能・構造解析には一般的に卵黄脂質に5〜10%コレステロールを加えたものが使われている。

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プロテオリポソーム

リポソーム上に機能を保持した膜タンパク質が存在するものをプロテオリポソームと呼ぶ。我々のグループでは、遠心分離にプロテオリポソームを回収することにより膜蛋白質を精製タグなしで精製することに成功している。

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細胞透過性ペプチド(CPP)

アルギニンなどの塩基性アミノ酸を10残基ほど繫いだペプチドは、膜透過性をもつ様になる。そのため、CPPを可溶性タンパク質に付加する事で、細胞内にCPP融合タンパク質を導入する事ができる。HIV-1のTatタンパク質がもつ塩基性ペプチド (GRKKRRQRRRPPQ)などが代表。

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分子標的薬

近年の分子生物学やゲノム解析の発展により、疾患発症メカニズムが分子レベルでわかってくるようになった。ある種の疾病の中には、特定の分子が発症の原因の1つと同定できることがある。その特定の分子を標的として阻害(もしくは活性化)することで発症を抑制する薬剤を分子標的薬という。特定分子の多くはタンパク質である。

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