NCtaggedタンパク質ライブラリー: プロテアーゼ基質探索ための新しい方法論

N末端にFlagタグ、C末端にビオチン化タグを付加したタンパク質(本研究ではプロテインカイネース)の合成と、プロテアーゼ(本研究ではカスパーゼ3)の基質探索技術の概要

プロテアーゼは、タンパク質を切断することにより、タンパク質の形を変えたり、タンパク質の細胞内局在などを変化させたり、時に増殖因子などのホルモンの放出に関与しています。ヒトゲノム上には500種類以上のプロテアーゼが見つかっています。これは、外的刺激や細胞増殖を高度に制御するプロテインカイネースの種類と匹敵します。つまり、プロテアーゼは、非常に重要な細胞内情報伝達の制御因子であるといえます。しかし、細胞内には非常に多種類のプロテアーゼが働いているため、どのタンパク質がどのプロテアーゼにより切断されるか、見極めることは困難でした。そこで、我々は、プロテアーゼの基質タンパク質を検出・同定できる探索技術の開発を目指しました。工夫した点として、基質タンパク質として、N末端とC末端に目印(タグ)を付加したタンパク質ライブラリー、切断検出には図に示したAlphaScreenを用いることにより、非常に網羅的・高感度にプロテアーゼにより切断されるタンパク質の同定に成功しました。これまで15年間の間に、カスパーゼ3で切断されるプロテインカイネースは31種類同定されていたのですが、我々の技術を用いると、たった一回のアッセイで30種類の新しい基質プロテインカイネースを同定することができました。現在、他のカスパーゼの基質探索のみならず、ウイルスのプロテアーゼで切断される宿主タンパク質の同定にも成功し、細胞内での切断の役割について研究を進めています。

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ビオチン化タンパク質ライブラリー: 診断マーカー探索の切り札となるか

血清中の構造認識自己抗体を全自動、高感度、高速に検出可能

高等動物がもつ免疫応答は、最も素早く、正確に分子を認識する生物機構です。一般的には、ウイルスなどの異物に対して抗体が作成され、攻撃して、生体を守ります。また、反対に、自分自身の蛋白質などに反応する抗体(特に自己抗体と呼ばれています)が作られてしまうと、自己免疫疾患などの疾病を誘発します。 しかし、最近の研究では、ガンなど様々な疾病においても、本来あるべき姿ではないと捉え、“異物”として応答し、自己抗体が作られることが知られています。また、自己抗体の多くは、構造を認識している可能性も指摘されています。そこで、我々は、N末端に1箇所だけビオチン化したタンパク質ライブラリーを作成し、AlphaScreenという既存の技術と組み合わせることにより、構造を保持したタンパク質を用いて、自己抗体を網羅的に検出できる技術の開発に成功しました。この技術により、ガンなどの疾患特異的に誘導される自己抗体を見つけることが期待されます。血液を一滴調べるだけで、ある程度正確な診断ができる日は、そう遠くないかも知れません。

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BISOP: 新しいタグフリータンパク質精製技術

sortase酵素を利用した、精製タグが除去された高精製度なタンパク質を必要とする時に威力を発揮!! 自動化も可能

現在の生命科学研究において、組換えタンパク質はなくてはならないものです。我々は、コムギ無細胞系を構築し、非常に多くの組換えタンパク質を手に入れる技術を開発してきました。組換えタンパク質を精製する場合、ヒスチジンを6〜10個つなげたヒスチジンタグや、グルタチオンに結合するGlutathione-S-transferase (GST)などの“精製タグ”を組換えタンパク質に付加するのが、一般的です。しかし、これらの精製タグは時として、タンパク質の機能や構造に対して、ネガティブな影響を起こす場合がありました。そこで、我々は、簡便に精製タグを除去しながら精製できる、コムギ無細胞系に適した新しいタンパク質の精製技術(BISOP法と名付けました)の開発に成功しました。この手法は、グラム陽性菌の多くがもつsortaseというプロテアーゼ活性とペプチド転移活性を併せ持つ酵素を組換えタンパク質の精製に利用しています。sortaseは、カルシウムとトリグリシンを添加するだけで、非常に高効率に、LPETGというアミノ酸配列のTとGの間を切断します。そのため、目的タンパク質のN末側にLPETG配列を付加しておくと、タグが除去された(グリシン1つのみ)目的タンパク質を得ることが出来ます。従来でもこの技術はあったのですが、細胞内で切断されてしまうという欠点があり、一般には使用できませんでした。 我々は、無細胞系にBAPTAというカルシウムキレーターを添加し、さらにsortaseのN末のビオチン化によりストレプトアビジンビーズで精製するという工夫により、いくつかの問題を解決し、非常に簡便で、精製度が高い精製方法BISOPを構築することができました。しかも、自動タンパク質合成・精製装置のProtemist DTIIでも利用可能です。また、複合体タンパク質の精製も可能です。溶出条件がマイルドですので、高比活性のタンパク質精製にも適しています。

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簡便・高感度ユビキチン・ポリユビキチン検出技術の開発

コムギ無細胞蛋白質合成系とルミネッセンス検出機器と組み合わせたユビキチン・ポリユビキチン化の検出

細胞内シグナル伝達機構の1つとして、最近、ユビキチン化やポリユビキチン化が注目されています。これまで、ユビキチン化は細胞がもつ単なる蛋白質分解と考えられていましたが、どうもそうでなく、細胞内の蛋白質の局在や活性制御にも、深く関わっていることがわかってきました。しかし、ユビキチン化には、多数の蛋白質が関与していることが知られており、解析することがなかなか困難でした。そこで、我々は、これまでに開発してきたコムギ無細胞蛋白質合成系を基盤に、ルミネッセンス検出技術と組み合わすことで、これまでより数十倍も高感度で簡便な技術を開発できました。この技術を用いることで、数百種類の蛋白質であっても、1日あれば、簡単にユビキチン化やポリユビキチン化を検出することができます。これにより、まだまだ未知なユビキチン経路の解明が飛躍的に進むことになると思います。

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核内受容体の生化学的分類

世界初の試みとして、生化学的解析による核内受容体のアノテーション

遺伝子の分類は、配列情報から行うことが一般的でした。確かに、転写因子や翻訳因子といった、遺伝子の大きな機能を推測するには、その手法はとても強力です。しかし、例えば転写因子と予測されても、どの様なDNA配列に結合するのかわからないため、どの遺伝子の転写制御に関与しているか予測することは不可能でした。そこで、コムギ無細胞タンパク質合成系を駆使し、脂質性ホルモンにより転写制御する核内受容体ファミリーを対象に、網羅的なDNA結合配列解析を行いました。その結果、これまでは別のグループと考えられて核内受容体が、実は、同じ遺伝子群を制御している可能性があることを見出しました。まだまだ今後の解析が必要ですが、このように従来のような配列からの分類とは異なり、生化学的解析に基づいた分類を提示することにより、より詳細な遺伝子の役割を予測していくことができるかも知れません。

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Caシグナルとストレス応答

カルシウムシグナルにより、ストレス誘導タンパク質は核へ移行する

細胞は、カルシウムを様々な形で細胞内外のシグナル分子として利用しています。コムギ無細胞タンパク質合成系を駆使し、カルシウムより活性化するプロテインカイネース(CaMK2d)の基質探索を動物細胞(Hela)から行ったところ、ストレスにより誘導されるタンパク質(STIP1)がCaMK2dによりリン酸化されることを見出しました。さらに、CaMK2dでリン酸化されたSTIP1は、核へ移行することがわかりました。STIP1は、ストレス応答に必要な熱ショック蛋白質と結合することが知られています。これらのことから、ストレス時に、カルシウムはCaMK2d→STIP1の作用により、熱ショックタンパク質を核へ運ぶシグナルとして働いていることがわかりました。

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新しい植物老化細胞死機構

植物老化時の細胞死では、リボソームの不活性化が起こっている

植物は、リボソームを不活性化する2種類の酵素(RIP: ribosome-inactivating proteinとRALyase: RNA apurinic site specific lyase)を持っています。幸いなことに、2種類とも、私達の研究室で、世界で初めて同定できました。その生化学的な不活性化メカニズムは、リボソームRNAの特定のたった一箇所のアデニンを取り除き(RIP)、その箇所を切断します(RALyase)。その結果、リボソームがもつアミノ酸をつなげる能力が完全に失活します。実は、大腸菌O-157のベロ毒素や、赤痢菌のシガ毒素も、別のタイプのRIPで、同じ箇所のアデニンを除去して動物の細胞死を引き起こします。私達は、何故、植物がこのような酵素群をもっているか不思議に思っていました。そこで、コムギが老化する過程でこの酵素の働きを調べてみると、老化時のプログラムされた細胞死の過程で、この酵素の遺伝子発現が誘導され、自分自身のリボソームを不活性化していることを見出しました。この酵素達は、動物のゲノムでは見つかっていないので、ひょっとすると、細胞死メカニズムは植物と動物では、大きく違っているのかも知れません。

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DBtagタンパク質チップ

DNA結合タンパク質とアガロース/DNAマトリックスを利用したチップ上でタンパク質の精製と固定を同時に行える3次元タンパク質チップの開発

網羅的なタンパク質解析には、タンパク質チップが有用です。しかし、これまでのタンパク質チップは、乾燥状態になってしまい、ほとんどのタンパク質は変性タンパク質となって、チップ上に固定されていました。そのため、タンパク質の機能を解析するには、乾燥に強いタンパク質のみが対象になっていました。そこで、私達は、乾燥を防ぐために高分子でポアサイズが大きいアガロースを利用し、また、タンパク質の精製と固定を同時に行うために、DNAに結合する新規なタグ(DBtag)を見つけ出し、応用しました。その結果、新たにデザインされたタンパク質チップ上で、プロテインカイネースの活性、タンパク質ータンパク質相互作用、カスパーゼ3による基質タンパク質の切断を確認することができました。今後、これをさらに発展させて、次世代の機能解析が簡単にできるタンパク質チップの開発を目指します。

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