タンパク質は重要な創薬標的
従来の創薬は、「経験知」に基づき、薬効が知られた素材から有効成分を精製、同定することで行われてきました。そのため、薬がどのように作用して薬効を発現するのか、そのメカニズムを明らかにするのは困難でした。古くから用いられている薬で、最近まで作用機序がわかっていなかったものも少なくありません。
一方で、ライフサイエンス研究が進み、生命の成り立ちや病気の原因についての知見が蓄積されるようになり、その結果1980年代ごろからいわゆる「分子標的薬」の考え方に基づいた創薬が行われるようになりました。現在では、病気の原因となる標的分子(創薬標的)を特定し、特定した創薬ターゲットに結合し作用する薬を膨大な数の化合物ライブラリの中から探索するという薬の開発手法が一般に使われています。
私たちの身体をつくり、多くの生命現象(代謝、エネルギー生産、運動、シグナル伝達 etc.) を司るタンパク質はほとんどの薬の創薬標的です。薬はタンパク質表面の穴や溝に結合し、タンパク質の形や機能を変えることで薬効を発揮します(下図)。分子標的薬に基づく創薬開発では、病気を引き起こし創薬標的となりうるタンパク質を見出すためにも、薬の候補を化合物ライブラリから探索するためにも、またその効果を評価し副作用を予測するためにも、大量のタンパク質が欠かせません。
ただし、大腸菌などで容易に調製可能なタンパク質を標的とした創薬はすでにやり尽くされており、現在、製薬企業は膜タンパク質やタンパク質複合体といった、いわゆる“難しい”創薬ターゲットを対象とする必要に迫られています。

プロテオ創薬科学
「プロテオ創薬科学」とは私たちが作った造語です。様々なタンパク質を自在に生産することができる技術(コムギ無細胞タンパク質合成技術)やスクリーニング技術を基盤とした新しい創薬技術を指します。私たちのセンター名でもあり、タンパク質を意味する”Proteo”という接頭語を付けています。
プロテオ創薬科学は大きく2つの技術から成っています。一つは膨大な数の組換えタンパク質を搭載したヒトプロテインアレイ、もう一つはそれを効率的に解析するスクリーニング技術です。プロテインアレイとスクリーニング技術を有効に駆使すれば、疾患に関わるタンパク質を探索し、発症のメカニズムを解明したり、治療薬が作用するタンパク質を特定することが可能です。
私たちはプロテオ創薬科学で開発した新技術をAMED BINDSの支援やPRiME共同研究に提供しています。