
VNARは構造や標的への結合方法が通常のIgG抗体とは異なります。
通常の抗体は重鎖と軽鎖の可変領域がそれぞれ3本の比較的短いループ(CDR1,2,3 x 2セット=計6本)で標的の部分構造(主にアミノ酸配列)を認識して、結合します(参考:Wikipedia 相補性決定領域)。
ところがVNARは1つのドメインしかないシングルドメイン抗体で、しかもCDR2ループを欠失しており、CDR1とCDR3のわずか2本のループで抗原に結合しています(左図)。結合に特に重要な役割をしているのがCDR3です。CDR1は短く、アミノ酸配列もほぼ固定なのに対して、CDR3は20アミノ酸残基から長いものでは40アミノ酸残基もあり、アミノ酸の多様性も非常に富んでいます(下図)。VNARはこのCDR3をつかって、標的分子を特異的に認識して結合します。もう一つのVNARの結合の特徴は、「構造認識」です。VNARは標的分子の立体的な構造を認識して結合します。そのため、構造が崩れた標的には結合することができません。

左上図はリゾチームという酵素に結合するVNARです。オレンジ色のCDR3ループがリゾチームの溝構造に食い込むように結合しているのが観察できます。私たちが得た他のVNAR抗体の例では、標的タンパク質の広い面をCDR3ループが覆うように結合していました。
このようにVNARは標的の溝やポケットを塞いだり、表面を広く覆うことができるので、酵素の活性阻害や、タンパク質間相互作用(結合)の阻害に適していると考えられます。病気の原因となるタンパク質の機能を阻害するVNARが得られれば、治療薬の開発に応用できると期待しています。
参考文献
実験医学増刊 Vol.40, No.20 治療の可能性が広がる抗体医薬
pp. 3293-3299, 羊土社 (2022)
最小・最長のシングルドメイン抗体 VNAR
竹田浩之
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