私たちはサメを使って「抗体」というタンパク質をつくっています。

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抗体は私たちの健康社会を支えているタンパク質
「抗体」は私たちの身体を守っている免疫の仕組みの一端を担うタンパク質です。抗体は特定の標的を識別して、特異的に、強く結合する能力を持っています。この特性を活かして、目に見えないような小さい分子を捕まえたり検出するために研究者は抗体を使っています。抗体は生命科学全般の基礎研究から、診断、治療など幅広い分野で活用され、私たちの健康長寿社会を支えています。


サメで抗体をつくる理由
一般的に、抗体はマウスやウサギなどの哺乳動物を使ってつくられます。特にマウスのIgGというクラスの抗体はよく研究されており、短期間で開発したり工学的に大量生産する手法や、診断や治療へ応用するためのツールも豊富です。しかし、マウスIgGにもいくつかの課題や限界があり、工学的に改変した抗体や、他の生物種がつくる変わった特性を持つ抗体に注目が集まるようになっています。このような、工学的に改変を加えて従来のIgG抗体にない機能を持たせた改変抗体を次世代抗体と呼びます。
私たちがサメを使って抗体をつくるのは、特殊な構造や性質を持った次世代抗体「VNAR」が得られるからです。サメやエイなどの軟骨魚類が持つ重鎖抗体 IgNARの先端部(標的に結合する部分)を切り出すとVNARが得られます(下図)。VNARは最小の抗体分子で、通常の抗体の1/12しかありません。小さいため、過酷な環境に晒されて構造が崩れても容易に復活しますし、他のタンパク質や薬に融合することも簡単です。通常のIgG抗体は培養細胞を使って生産するので生産コストが高いのですが、VNARは大腸菌などのバクテリアを使って大量生産できるので生産コストも抑えられます。
