
当研究室では、無細胞タンパク質合成技術を応用し、網羅的相互作用解析ツールの一つである「プロテインアレイ」の研究開発を進めています。この度、第25回日本蛋白質科学会年会 ワークショップ9 「生命科学研究を支える蛋白質生産技術の最前線」(発表日:2025年11月18日)にて、竹田が「無細胞系であなたにも作れるプロテインアレイ(Build Your Own Protein Arrays with Cell-Free Technology: A Practical Overview)」と題した講演を行いました)。
無細胞系タンパク質合成技術は、細胞から抽出した翻訳機構を試験管内で再構成し、目的のタンパク質を合成する手法です。細胞培養が不要なため迅速なタンパク質生産が可能で、細胞という制約がないため従来の細胞発現系では困難だった、細胞内シグナル伝達を乱すタンパク質や細胞毒性を示すタンパク質でも生産可能です。様々な細胞から無細胞系が構築されていますが、私達が用いているコムギ無細胞系は高い翻訳活性と翻訳成功率(>90%以上)を持つ高性能な真核生物翻訳系です。コドンバイアスに極めて影響されにくいという特長を持ち、ヒト、動物、植物、原虫、ウイルスなど、幅広い生物種のタンパク質を合成した実績があります。
プロテインアレイは、無細胞系で合成した多数の組換えタンパク質を搭載した研究ツールの一つです。タンパク質は生体内で他の分子との相互作用を通じて機能を発揮しており、基礎研究や創薬応用の様々な目的のため相互作用が研究されています。プロテインアレイは網羅的な相互作用解析に非常に有効です。当研究室では、かずさDNA研究所との共同研究により、9,300種のヒトタンパク質を合成した大規模アレイ(Ehime-Kazusa array)を構築しました。産総研のHuPEX アレイ(約20,000クローン)とあわせて、最大29,000クローンの組み換えヒトタンパク質をスクリーニングに提供可能です。私達はこのプロテインアレイを多岐にわたる研究に活用しています。例えば、疾患関連タンパク質や未同定タンパク質の相互作用パートナーの発見、抗体特異性の評価、疾患特異的自己抗体やバイオマーカーの発見、転写因子の解析、未解明な作用機序を持つ生理活性分子のターゲット同定、低分子薬剤のターゲットバリデーションなど、その応用範囲は多様です。

このような大規模アレイの作製や維持にはノウハウと大量のリソースが必要ですが、基礎的な知識とある程度の研究リソースがあれば、数十種類のタンパク質からなる比較的小規模なアレイは比較的容易に作製できます。本講演では、研究者が独自の小規模プロテインアレイを作ってみることを提案しました。研究室で過去に収集された遺伝子リソースや合成遺伝子を活用すれば、数十種類のタンパク質からなる小規模なプロテインアレイは最小限の手間とコストで作成可能です。研究者の関心領域に特化したアレイを用いて、特定のシグナル伝達経路や炎症、老化といった生物学的イベントを標的としたカスタムプロテインアレイや、特定のタンパク質の疾患関連バリアントや変異体を収集したアレイ、あるいは触媒ドメインやタンパク質相互作用ドメインといった特定のドメインを含むアレイなど、アイディア次第で極めて有用なツールが作製可能です。
本講演では無細胞系を使ってプロテインアレイをつくる具体的な工程を紹介しました。また多数のタンパク質を少量ずつ合成する際に役立ついくつかのTipsをお伝えしました。ご自身の研究を加速させるために、独自のプロテインアレイ作製に挑戦してみる研究者がお一人でも出てくることを期待します。
