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プロテオサイエンスセンター今井教授らが、前立腺がんの細胞増殖および骨転移を制御する分子を発見し、International journal of cancer誌で発表しました【記者説明会7月23日】
愛媛大学プロテオサイエンスセンター病態生理解析部門 今井祐記教授、大学院医学系研究科泌尿器科学講座 雑賀隆史教授、沢田雄一郎大学院生らの共同研究グループは、前立腺がんの骨転移を制御する遺伝子であるGPRC5Aを同定し、GPRC5Aが前立腺がん細胞の増殖と骨への転移を制御していることを明らかにしました。
前立腺がんは、本邦のみならず、世界的に非常に頻度の高い疾患です。早期診断、早期治療により高い確率で根治が見込めるがんですが、進行すると、リンパ節や内臓への転移のみならず骨への転移を高頻度で起こします。この場合、予後は悪く(5年生存率:数%)、骨への転移に伴う病的骨折や全身の痛みなどの苦痛を伴うことが大きな問題となっています。しかし、前立腺がんに特異的な骨転移のメカニズムについての詳細な研究成果は、これまでのところほとんど報告されておらず、前立腺がんに特異的な予防/治療法は確立されていません。
本研究グループは、これまでマウスを用いた骨転移モデルにおいて、骨転移しやすい細胞株と骨転移しにくい細胞株の遺伝子データをデータベースから収集し、発現に差のある遺伝子を抽出しました。さらに、前立腺がん患者サンプルから得られる前立腺がん細胞遺伝子発現データからも、骨転移の有無で患者サンプルをグループ分けし、同様に発現に差のある遺伝子を抽出しました。その結果、骨転移に関連する候補因子として7つの遺伝子を同定し、そのなかで最も発現の変動が大きい遺伝子としてGPRC5Aを同定しました。
次に、前立腺がん細胞株においてGPRC5Aをゲノム編集技術によりノックアウト(KO)したところ、培養皿上及びマウス生体内ともにがん細胞の増殖が有意に抑制されました。GPRC5AをKOすることによる他の遺伝子発現の変動をRNAシークエンスという手法を用いて解析した結果、GPRC5AのKOにより細胞周期に関連する遺伝子の発現が有意な変動を呈し、細胞周期が停滞していることが分かりました。次に、マウスの骨に前立腺がん細胞を接種する骨転移成立実験において、GPRC5A をKOした前立腺がん細胞株は骨転移の成立が顕著に抑制されました。
さらに、ヒト前立腺がん生検組織 (n=255)を用いた解析の結果、GPRC5Aの免疫染色性は、Gleason Scoreという前立腺がんの悪性度および骨転移の有無と有意な正の相関を示すことが分かりました。これらの結果から、GPRC5Aは前立腺がんの細胞増殖および骨転移の成立に必須な分子であることが示唆されました。また、ビックデータ解析においてGPRC5Aの発現が高い前立腺がんは発現が低い前立腺がんに比べて優位に予後が悪いことも分かりました。このことから、GPRC5Aが、骨転移の発生や予後の予測マーカー、治療標的分子として開発されることが期待されます。
本研究は、愛媛大学プロテオサイエンスセンター、大学院医学系研究科、学術支援センター、東京大学先端科学技術研究センター、ハンガリー科学アカデミー、神奈川県立がんセンターとの共同研究として行われました。
この研究成果は7月5日にドイツの科学雑誌『International journal of cancer』に公表されています。

GPRC5Aノックアウト細胞では、がん細胞の増殖が抑制される。

記者説明会の様子

(左)今井教授、(中央)雑賀教授、(右)沢田さん

実験室見学の様子

実験室見学の様子