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PROSセミナー&大学院特別講義を開催しました
プロテオサイエンスセンター 病態生理解析部門 主催のPROSセミナーを開催いたしました。多くの皆さまのご来場、心より御礼申し上げます。
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直鎖状ユビキチン鎖:NF-kB活性化、細胞死抑制、そして疾患
京都大学大学院医学研究科 細胞機能制御学
教授 岩井 一宏 先生
ユビキチン修飾系はタンパク質分解系の一部として発見された翻訳後修飾系である。発展の経緯もあり、これまではタンパク質を分解に導くためだけの翻訳後修飾系であると考えられてきた。しかしながら、90種類以上の脱ユビキチン化酵素が存在するなどユビキチン系は可逆的な翻訳後修飾系であり、現在では分解のみならず多様な様式でタンパク質の機能を制御することが明確となっている。ユビキチン系はユビキチンを多彩な様式でタンパク質への修飾させることで、多様な様式でタンパク質の機能を制御できることが知られている。多くの場合、ユビキチンのポリマーであるユビキチン鎖を結合させることでタンパク質の機能が制御されているが、ユビキチン鎖も多様である。ユビキチン鎖はユビキチンに7個存在するリシン残基を介して形成されると考えられてきたが、我々はユビキチン鎖生成の酵素学的なメカニズム解析の過程で、ユビキチンのN末端のメチオニンを介して生成される直鎖状ユビキチン鎖の存在と、それを選択的に生成するLUBACユビキチンリガーゼ複合体を発見し、ユビキチンの世界に全く新しい概念を導入した。
我々が発見した直鎖状ユビキチン鎖は結合したタンパク質を分解に導くのではなく、タンパク質間相互作用を惹起して免疫応答、細胞の生存などに関与する転写因子であるNF-kBの活性化、プログラム細胞死の抑制に関与する。さらに、疾患との関係も明確になっている。直鎖状ユビキチン鎖を選択的に生成するLUBACユビキチンリガーゼの機能低下はヒト、マウスで自己炎症性疾患および免疫不全症の原因となること、LUBACの活性亢進がABCタイプのB細胞リンパ腫の発症に関与していることが報告されている。また、日和見感染症を惹起する真菌であるアスペルギルスの病原性因子であるグリオトキシンがLUBACを選択的に阻害することなど、病原微生物はLUBACを抑制して感染を成立させていることが次々に明らかになっている。
本講演では我々がユビキチン鎖の生成のenzymologyの研究の過程で発見した直鎖状ユビキチン鎖のpathophysiologyとその新たな展開を紹介したい。
