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PROSセミナー&大学院特別講義を開催しました

病態生理解析部門・免疫制御学部門共同開催セミナー

2016.07.01
学会・セミナー
17:00~19:00
医学部 基礎第1講義室(総合教育棟2F)

このたび、プロテオサイエンスセンター病態生理解析部門、免疫制御学部門共同セミナーを開催しました。 皆様のご来場、心よりお礼申し上げます。  ・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・
【演題・演者】
「骨格筋幹細胞の運命選択と部位特異性の分子基盤」  17:00~18:00
長崎大学 原爆後障害医療研究所 幹細胞生物学研究分野
小野 悠介 講師

骨格筋は損傷しても修復・再生できる優れた可塑性をもつ。筋線維の周囲に存在するサテライト細胞は,筋修復・再生を担う唯一無二の骨格筋の組織幹細胞である。近年,サテライト細胞は,並外れた筋再構築能が注目される一方で,その機能低下は筋ジストロフィーなどの難治性筋疾患や加齢に伴う筋脆弱症(サルコペニア)を含む様々な筋病態に関連することが報告されている。
通常,サテライト細胞は休止期で存在するが,筋線維が損傷すると速やかに活性化される。活性化された細胞は,増殖を繰り返し,筋分化することで筋修復・再生が完了する。活性化された一部の細胞は,再び休止期状態へと戻り(自己複製),さらなる筋損傷に備える仕組みをもつ。我々はサテライト細胞の増殖,分化,自己複製といった幹細胞運命選択の分子メカニズムの解明に取り組んでおり,近年,NotchやBMPシグナルがサテライト細胞の運命決定において中心的な役割を担っていること,最近ではScribやaPKCといった細胞極性因子が筋前駆細胞プールを巧妙に調整していることを見出している。
全身の骨格筋に隈なく存在するサテライト細胞は,その部位により性質が異なる。このサテライト細胞の部位特異性の謎を紐解くために,我々は骨格筋の発生起源の違いに着眼している。また我々は,たとえ同一筋内であっても,サテライト細胞には機能的な不均一性があり,増殖能旺盛かつ自己複製するといったステムネスを保持する集団がいる一方,活性化して数回の増殖後,自己複製せずに筋分化を遂げる非ステムネス集団も存在することを見出している。
本講演では,サテライト細胞の幹細胞生物学の最新研究動向を我々の知見を交えて紹介したい。

「脂肪酸クオリティの最先端リピドミクスと生理的意義」
理化学研究所 統合生命医科学研究センター メタボローム研究チーム
チームリーダー 有田 誠
生体内には多くの種類の脂質が存在しており、その質の違いや代謝バランスの変化はヒトの健康や疾患と関連があると考えられている。これら脂質分子の構造的な特質を「リポクオリティ」と捉え、リポクオリティの多様性が果たす生物学的意義について考える必要がある。しかしながら、リポクオリティを網羅的かつ明確に区別する解析技術は未だ発展途上にあり、またリポクオリティを制御・識別する分子機構やその生物学的意義に関する理解は萌芽的な段階にある。
近年の質量分析技術の進歩は、各々の脂質分子種の代謝、分布、動態を詳細に捉えることを可能にした。このような背景のもと我々は、生体内の脂肪酸代謝物を包括的に捉えるための測定系を確立し、炎症の制御において脂肪酸代謝の質的変化が関与する可能性を見いだしてきた。さらに我々は、特定の脂質分子種を選択的に測定する従来型のターゲット解析(LC-tripleQ MS)に加え、分子種を特定しないノンターゲット解析(LC-QTOF MS)を組み合わせることで、先入観のない探索範囲の拡大および解析データの質の向上を目指している。これにより、各種脂質の合成・代謝酵素の遺伝子改変動物、あるいは栄養要因によって体内の脂質代謝バランスが変化した状況において、リポクオリティの違いを機能的に反映する脂質代謝系および活性代謝物の同定を目指している。本講演では、さらに進化しつつあるリピドミクス新技術の有用性と今後の発展性について議論したい。