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タンパク質を効率的に修飾できる酵素「AcSE5」を開発~次世代バイオ医薬品の開発、タンパク質・酵素の産業利用を加速~

2024.03.29
研究
プロテオ創薬科学部門

発表のポイント

  • 祖先配列再構成法を用いて、高機能なタンパク質連結酵素(AcSE5; 祖先型ソルターゼE)の開発に成功しました。
  • AcSE5は、高い連結活性に加え、様々な求核剤(トリグリシン、アルキルアミン)を基質にできることが特徴です。
  • AcSE5を用いて、蛍光タンパク質を含む、機能的なタンパク質を、効率的に抗体に連結することに成功しました(修飾抗体)。
  • AcSE5を用いて、固定化担体に効率的に酵素を連結することに成功しました(固定化酵素)。固定化された酵素は、長期間高い活性を保持していることを確認しました。
  • AcSE5は、タンパク質や酵素に、様々なタンパク質、酵素、化合物を、穏やかな反応条件下で連結することができます。今後、次世代のバイオ医薬品(抗体など)、タンパク質・酵素の産業利用の加速が期待できます。

 

概要

生物を構成する分子の1つであるタンパク質は、生体内で多様な機能を発揮します。例えば抗体は、体内に侵入した病原性のウィルスや微生物などの抗原を認識し、免疫を誘導する引き金となります。また酵素は、生体内の代謝を担う重要な役割を果たしています。これらタンパク質を、医療や産業応用につなげるための研究が世界的に進められています。タンパク質の機能を改変することができれば、応用利用の幅が広がります。

機能改変を達成する上で、タンパク質を修飾することは有効なアプローチの1つです。ターゲットのタンパク質に、その他の機能性分子を連結することで、多様な機能をタンパク質に付与することができます。タンパク質を修飾する様々な方法がありますが、酵素を用いた方法は、タンパク質の特定の部位に修飾することができ、また穏やかな条件で反応を行えることが特徴です。目的タンパク質の変性などを抑えつつ、様々な化学修飾を加えることが期待できます。

静岡県立大学の中野 祥吾准教授、伊藤 創平准教授、千菅 太一助教、宮田 梓氏(博士前期課程2年)、神戸 彬光氏(研究当時:博士前期課程2年) および愛媛大学の竹田 浩之准教授らの研究チームは、独自のアミノ酸配列データマイニング法注1)と祖先配列再構成法 注2)を融合した手法を用いて、タンパク質連結酵素である祖先型ソルターゼE(AcSE5)の開発に成功しました。本酵素を用いて蛍光標識抗体をはじめとする修飾抗体や、固定化酵素の作成に成功しました。本酵素は従来の酵素よりも様々な求核剤を基質にできるという特徴を有しており、抗体修飾などに用いられる一部アルキルアミンを直接、アシル供与体と連結できることを実験的に確かめています。

今回の成果を用いて、様々なタンパク質と化合物を連結した修飾タンパク質を合成することが可能となり、次世代抗体や酵素材料の開発を加速できることが期待されます。本成果は2024年2月20日に米国の科学雑誌「ACS Catalysis」に掲載されました。また本成果の一部について特許出願を完了しています(特願2023-066172)。

 

論文情報

(雑誌) ACS Catalysis
(題目) Design of Ancestral Sortase E that is Applicable in Protein Biomaterial Synthesis
(著者)Azusa Miyata1, Taichi Chisuga1, Akira Kambe1, Ryo Miyata, Yui Kawamura, Hiroyuki Takeda, Sohei Ito and Shogo Nakano*
(DOI) 10.1021/acscatal.4c00487
(URL) https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acscatal.4c00487
(備考) 1: 共同筆頭著者, *: 責任著者

詳細は、愛媛大学プレスリリースにて、ご確認ください。

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