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催奇性を回避できるサリドマイドの改良とPROTAC への応用へ

2023.09.01
研究
無細胞生命科学部門

このたび、プロテオサイエンスセンター 山中聡士 特定助教 らの研究グループは、サリドマイドの重篤な副作用である催奇形性を軽減したサリドマイドの改良とそれを応用した新たなPROTAC の開発に成功しました。重篤な副作用を軽減したタンパク質分解誘導剤開発への第一歩となります。

サリドマイドは半世紀以上前に開発され、胎児に重篤な催奇性を誘発し、世界最大の薬害を引き起こした低分子薬剤として広く知られています。現在、サリドマイド誘導体は血液がんの治療薬として年間約1 兆円以上の規模で使用されています。しかしながら、催奇性を回避したサリドマイド誘導体は報告されていません。副作用を軽減することが難しいのが現状でした。

これまでの研究から、サリドマイドやサリドマイド誘導体はタンパク質を分解誘導するタンパク質分解誘導剤であることが明らかになっていました。また、我々が開発してきた技術を用いることにより、抗血液がん作用に関与するタンパク質を分解誘導し(薬理作用を維持もしくは向上)、サリドマイド催奇性に関与するタンパク質を分解誘導しない(副作用の軽減)、新規サリドマイド誘導体が開発可能であると考えました。

有機合成によりサリドマイド誘導体の化学構造を改変し、薬理作用を持ちながら、副作用を軽減するサリドマイド誘導体を開発し、その作用を詳しく解析しました。その結果、数種類のサリドマイド誘導体が、既存薬レナリドミドが使用されている血液がんである多発性骨髄腫や5q MDS 症候群由来の培養細胞株に有効性を示しました。

さらに、この改良型サリドマイド誘導体を、次世代の治療薬として期待されているキメラ化合物PROTAC へ応用したところ、催奇性に関与するタンパク質の分解が抑制され(副作用の軽減)、薬効標的タンパク質をより選択的に分解誘導する(高い薬理作用)ことを示しました。

本研究成果により、催奇性を回避したサリドマイド誘導体の開発や様々な疾患に対する選択的なPROTACs の開発が促進されることが期待されます。

 

≪論文≫
この研究成果に関する論文は、2023年8月18日付けでNature Communications 誌に掲載されました。
Lenalidomide derivatives and proteolysis-targeting chimeras for controlling neosubstrate degradation

≪研究グループ≫
愛媛大学プロテオサイエンスセンター:山中 聡士 特定助教、澤崎 達也 教授、降旗 大岳 特定研究員、柳原 裕太 特定助教、今井 祐記 教授
・名古屋工業大学大学院工学研究科:柴田 哲男 教授
・徳島大学先端酵素学研究所:小迫 英尊 教授
・京都大学大学院生命科学研究科:宮川 拓也 准教授
・東京大学:田之倉 優 名誉教授

≪参考資料≫
記者説明会 プレスリリース資料 (PDF)

朝日新聞デジタル がん治療薬のサリドマイド、副作用抑制する改良に成功 愛媛大など(8/26) (朝日新聞社のサイトへリンクしています)

記者説明会の様子 質問に答える山中特定助教(左)と 澤崎センター長(右)

記者説明会の様子 質問に答える山中特定助教(左)と 澤崎センター長(右)

2023年8月23日付愛媛新聞(総合)<br> 許可番号:d20230823-04

2023年8月23日付愛媛新聞(総合)
許可番号:d20230823-04