研究紹介|高島英造

マラリア研究部門 准教授 高島英造
マラリア研究部門 准教授 高島英造

0.自己紹介
私がどのような研究をしてきたのか、いま何をしていて、これから何をしたいのか、紹介したいと思います。

1.マラリア研究との出会い
私がマラリアの研究を希望して東京大学医科学研究所の寄生虫研究部を訪れたのは20年ほど前のことでした。まず大腸菌によってマラリアワクチン候補分子EBA175の発現をトライしましたが、あえなく失敗に終わりました。(その頃は知らなかったのですが、マラリアのタンパク質を他の生物で発現するのは、とても難しいのです。)そこで研究テーマを変えて、熱帯熱マラリア原虫ミトコンドリアの研究を行ないました。多量の原虫を培養して、そこから「生きたミトコンドリア」を分離する方法を確立するのは非常に体力の要る仕事でしたが、この研究を通して、ジヒドロオロト酸(DHO)がマラリア原虫の呼吸基質の1つであることを初めて示すことができました。この研究成果を基に、後の研究でDHO脱水素酵素(DHODH)によるオロト酸の生成が赤内型マラリア原虫の核酸合成に必須であることが明らかになりました。現在ではDHODHが抗マラリア薬のターゲットとして注目されています。また抗マラリア薬アトバコンは、DHODHを間接的に阻害することによってマラリア原虫の増殖を阻害することが知られています。

2.武者修行へ
博士課程修了後、マラリア研究を続けることも考えましたが、多くの研究手法を経験することが先決だと考えました。そこで万有製薬(現MSD)に就職し、糖尿病の新規薬剤ターゲットの探索やハイスループットな化合物評価系/動物を使った薬効評価系の確立を行ないました。脱サラ後、日本歯科大学に助教(助手)として着任し、侵襲性歯周炎の起因菌Aggregatibacter actinomycetemcomitansから呼吸鎖ユビキノールの還元力を利用して過酸化水素を還元する、全く新しいペルオキシダーゼ(キノールペルオキシダーゼ:QPO)を発見しました。QPOはA. actinomycetemcomitansの酸化ストレスを抑える活性を持つだけでなく、細胞毒分泌に必須の酵素であることがわかりました。そこでQPOの特異的阻害剤を見出すことで、病原因子特異的な侵襲性歯周炎治療の可能性を拓くことに成功しました。

3.再びマラリア研究へ
日本で結果を得ることができたので、海外に活動の場所を移してマラリア研究を再開することにしました。パスツール研究所とミネソタ大学に留学しマラリア原虫の媒介蚊 (Anopheles gambiae) の自然免疫に重要なタンパク質であるAPL1と相互作用する新しいタンパク質の同定に成功しました。文化の違い、システムの違い、考え方の違いを学ぶいい機会になりました。ここらへんの体験記は日本パスツール協会のホームページにありますので、興味がある方は御覧くださいませ。

http://www.pasteur.jp/scholarship/nouvelles_boursier_takashima.html

4.愛媛大学へ着任
愛媛大学プロテオサイエンスセンター・マラリア研究部門では、愛媛大学が開発したコムギ無細胞タンパク質合成系を用いることで、世界で唯一、マラリア原虫タンパク質のゲノムワイド合成が可能です。まさに大規模マラリア原虫タンパク質解析時代の到来です。坪井教授が過去10年で明らかにしてきたマラリアワクチン候補タンパク質群は、原虫の赤血球への感染メカニズムを明らかにする上で非常に重要ですが、その全てが機能の分からないタンパク質です。そこでマラリア原虫の赤血球侵入機構の解明を目的に、これらタンパク質の機能解析を進めています。ぶっちぎりで「やりたい放題」な環境なわけですが、要約するのなら現在進行中の研究テーマは以下の3つに分類できると思います。

1. マラリア原虫赤血球結合タンパク質の赤血球レセプターの同定
2. マラリア原虫タンパク質複合体の同定
3. マラリアワクチン候補分子の構造解析

タンパク質の相互作用や構造を基に、阻害剤や抗体を利用して機能未知タンパク質の解析を試みています。マラリア原虫とヒトとの関係を分子レベルで明らかにする事によって、マラリアワクチンや抗マラリア薬の開発に大きく貢献できると考えています。

5.コムギからマラリア原虫を再構成
最後にもっと夢のある話を。私は、コムギ無細胞系からマラリア原虫(の一部)を創りだしたいと思っています。専門的に言えばこれは「再構成」と呼ばれるもので、生化学における生命現象の理解のために用いられる基本的な方法です。赤血球侵入に関わる分子を同定して性質を調べ、それらを集めた時にその現象が再現できることを示したい。そうすることによってマラリア原虫の赤血球侵入機構の最も単純な形を証明することができたら………と想像するだけでヨダレがでます。「マラリア原虫赤血球侵入機構の再構成」ああ、なんという甘美な響きでしょう。ウイルスでは既に再構成されていますが、マラリア原虫ではその可能性すらまだ見えない高みです。それでもなお、私の研究の最終目標はこういう所にあると思っています。

6.新メンバー募集中
マラリア研究部門では新メンバーを募集中です。マラリア原虫の謎を一緒に解き明かして、世界をあっと言わせようではありませんか。