1. タンパク質分解薬を対象とした研究

    従来の低分子医薬品は、細胞内で標的タンパク質の酵素活性を阻害することで作用すると考えられてきました。しかし近年、低分子化合物が標的タンパク質の分解を誘導して作用する例が明らかとなり、このような化合物群は「タンパク質分解薬」と呼ばれています。
    タンパク質分解薬は、

    1). 触媒的に作用し低濃度で強力な効果を示す、
    2). 標的タンパク質の全機能を抑制する、
    3). 酵素活性を持たないUndruggableタンパク質にも適用可能である

    といった特徴を持ち、次世代の創薬モダリティとして注目されています。私たちの研究室では、タンパク質分解薬に焦点を当て、多角的な研究を行っています。

① サリドマイドの作用メカニズムの解明

    サリドマイドは1950年代に妊婦に対する催眠剤として使われましたが、胎児に重篤な催奇性を引き起こしたことで大規模な薬害を引き起こしました。その後、血液がんやハンセン病への効果が認められ、再認可されました。現在は、誘導体のレナリドミドやポマリドミドが多発性骨髄腫などの治療に広く使われています。
    サリドマイドの作用機構は半世紀以上の間未解明でしたが、近年の研究で、サリドマイドや誘導体はCRL4複合体の受容体であるセレブロン(CRBN)に結合し、標的でない「ネオ基質」の分解を誘導する「タンパク質分解薬」であることがわかりました。これにより抗血液がん作用や催奇性を示すことが明らかになりました。私たちは基盤技術を活用し、ネオ基質の探索を進め、催奇性に関与するPLZFなどを同定してきました。現在も作用機構や新規ネオ基質の解明に取り組んでいます。

② 新たなサリドマイド誘導体の開発

    サリドマイドやサリドマイド誘導体は、主にC2H2タイプのジンクフィンガードメインを持つ転写因子を分解誘導します。そのため分解可能な標的は限られると考えられていましたが、近年の研究により、特定の立体構造を持つタンパク質であれば分解誘導できる可能性が示されています。このような構造を持つタンパク質はヒトプロテオームに2500種類以上存在すると推定されています。私たちはCRBNに結合する化学構造を有する化合物を高度に修飾することで、より多様な標的を分解誘導できる可能性を追求し、催奇性を抑えつつ抗がん作用を示す新たなレナリドミド誘導体を開発しています。現在もCRBNを標的とした新規タンパク質分解薬の開発に取り組んでいます。

③ キメラ型タンパク質分解薬の開発

    タンパク質分解薬は、サリドマイドのような「分子糊型」と、E3リガーゼ結合化合物(E3バインダー)と標的タンパク質結合化合物(標的バインダー)を化学的に連結した「キメラ型」に大別されます。後者はPROteolysis Targeting Chimera(PROTAC)と呼ばれ、標的バインダーを変更することで多様なタンパク質を分解誘導可能な革新的モダリティです。すでにいくつかのPROTACは臨床試験で有効性が示されていますが、サリドマイド構造に由来するネオ基質の分解による副作用リスクがあります。私たちは独自のレナリドミド誘導体をCRBNバインダーとして用い、ネオ基質分解を制御できることを示しました。現在、新たなCRBNバインダーや他のE3バインダーの探索を進め、安全で有効なPROTACの開発を目指しています。



2. タンパク質分解誘導酵素を対象にした研究

    タンパク質分解薬の研究は急速に拡大していますが、標的となるE3リガーゼの生理的機能は十分に理解されていません。
    例えば、最も研究が進んでいるCRBNでさえ、内在性基質や生理的機能には不明な点が多く残っています。
    私たちはE3リガーゼに注目し、その基質や機能を明らかにすることで、タンパク質分解薬の開発や適切な利用に貢献することを目指しています。

① DCAFファミリーの機能解析

    分子糊型タンパク質分解薬の多くは、E3ユビキチンリガーゼ複合体CRL4の基質認識受容体であるDCAF(DDB1- and CUL4-associated factor)ファミリーを標的とし、ネオ基質の分解を誘導します。DCAFはヒトゲノムに60〜65種類存在すると考えられていますが、その多くは基質や機能が未解明です。DCAFの機能解析はCRL4が関与する生命現象の理解やタンパク質分解薬の応用に重要であり、私たちは基質探索や機能解析を進めています。

② タンパク質分解誘導薬(分子)の探索と開発

    現在、実用化されているタンパク質分解薬の多くはCRBNをE3リガーゼとして利用しており、利用可能なE3リガーゼが限定的であることが課題です。私たちはDCAFファミリーに注目し、CRBNに代わる新たなDCAFを用いたタンパク質分解薬の開発を進めています。




基盤となる技術

タンパク質–タンパク質間相互作用解析
(Protein–Protein Interactions/PPIsAnalysis)

    細胞内のタンパク質は多くの場合、他のタンパク質と相互作用することで機能を果たします。相互作用解析はタンパク質の機能理解に不可欠であり、私たちはPPIs解析を基盤技術として、解析対象タンパク質のインタラクトーム解明を目指しています。

① 組換えタンパク質を用いた相互作用解析

    愛媛大学プロテオサイエンスセンター(PROS)で独自開発されたコムギ無細胞タンパク質合成系により、2万種類以上のヒト組換えタンパク質を搭載したプロテインアレイが構築されています。これにAlphaScreen技術を組み合わせることで、高感度かつハイスループットなPPIs解析が可能です。本研究室では、この技術を活用し、サリドマイド催奇性に関与するネオ基質同定や新規誘導体の開発に成功しています。

② 近接標識法を用いた相互作用解析

    細胞内での複雑な相互作用や翻訳後修飾が必要な場合、組換えタンパク質による解析は難しいことがあります。近接標識法(Proximity Labeling:PL)は、生細胞内で解析対象タンパク質の周辺相互作用を解析できる技術です。私たちは高活性な新規BioID酵素「AirID」を開発し、E3リガーゼに融合することでタンパク質分解薬依存的な相互作用解析法を確立しました。



参考文献

References

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