Innovative Areas (H24~25)

研究概要

Research Outline

 『特定の分子が存在する時にのみ、特定の遺伝子の発現が抑制あるいは促進されるシステム』を任意の分子に対して合理的に構築することができれば、合成生物学の基盤技術として有力なツールとなりうる。このようなシステムのモデルとしては、原核生物が有する、分子応答性・シス作用型の遺伝子発現制御RNA『リボスイッチ』が有力候補としてあげられる。リボスイッチは、分子結合部位(アプタマー)および遺伝子発現制御部位から成っており、アプタマーと対応分子の結合が遺伝子発現制御部位の構造変化を誘起する仕組みで、分子に応答した遺伝子発現制御を実現している。天然リボスイッチ中のアプタマーは代謝産物に結合するものに限定されるが、任意分子に結合する人工アプタマーはin vitro selection法により獲得できるため、その人工アプタマーを適切に用いれば、任意分子に応答する人工リボスイッチが構築できると考えられる。実際に、これまでに多くの原核系人工リボスイッチ(特に翻訳制御型)が報告されてきた。一方、真核系においては、リボソームがmRNAの5’末端から進入するという翻訳システムの特徴のため、翻訳制御型ONリボスイッチの構築は困難であった。

 そこで、本研究では、真核系における特殊な翻訳機構である「shunting」と呼ばれる内部リボソーム進入機構を利用し、リボソームをmRNAの中腹から進入させることで、真核系の翻訳制御型人工ONリボスイッチ」の構築を目指す。最終的には、アプタマーの配列情報だけで、人工リボスイッチを合理的に設計する方法を確立することを目標とする。目標達成のためには、相当数の試行錯誤が必要となるが、真核系無細胞翻訳システムを駆使することによって、効率的に最適化が行えると考えられる。本研究で高効率リボスイッチが得られた場合は、生物学班等と連携して、細胞内・生体内での評価を行う。

 

研究成果

Research Outcomes

 真核系無細胞翻訳システム(コムギ胚芽抽出液)を駆使してshunting機構を詳細に調査し、その情報をもとにshunting基盤の真核系人工リボスイッチを開発した。このshunting基盤リボスイッチは、スイッチング時にRNA2本鎖の組換えを伴わず、エネルギーロスが軽減できるため、既存の真核系人工リボスイッチよりも高いスイッチング効率を示した。また、RNAの組換えが必要ないので、設計が簡便であるという利点もある。実際、アプタマーの配列情報だけでshuntingリボスイッチが構築できるように「合理的設計法」も確立した。本法を用いれば、合理的かつ簡便に真核系ONリボスイッチを構築できるため、真核系合成生物学の基盤技術として大いに期待できる。
 本研究をまとめた論文は、ChemBioChem誌に掲載された("Ligand-Dependent Upregulation of Ribosomal Shunting", Atsushi Ogawa, ChemBioChem 2013, 14, 1539-1543. [link]:重要論文および雑誌の外表紙に選ばれた)。

 この他にも、他班の研究者と連携して、原核系人工リボスイッチを活用し、ラン藻の概日リズムを人工的に操作することに成功した。("Theophylline-dependent Riboswitch as a Novel Genetic Tool for Strict Regulation of Protein Expression in Cyanobacterium Synechococcus elongatus PCC 7942", Yoichi Nakahira, Atsushi Ogawa, Hiroyuki Asano, Tokitaka Oyama, and Yuzuru Tozawa, Plant Cell Physiol. 2013, 54, 1724-1735. [link])

 また、合成生物学に必要な遺伝子回路に関連して、多分子インプットの論理回路(ロジックゲート)を簡便に構築する方法を報告した。("Multiple-input and visible-output logic gates using signal-converting DNA machines and gold nanoparticle aggregation", Atsushi Ogawa and Yukiko Susaki, Org. Biomol. Chem. 2013, 11, 3272-3276. [link]:雑誌の外表紙に選ばれた)

 さらには、人工リボスイッチ構築に関する実験プロトコルを世界中の研究者からご寄稿いただき、"Methods in Molecular Biology: Artificial Riboswitches"という本を編集した(Springer, 2014, 1111)[link]。また、自らもChapter 12の"Rational Design of Artificial ON-Riboswitches" (pp.165-182) を執筆した。

 

"Making the simple complicated is commonplace; making the complicated simple, awesomely simple, that's creativity"
- Charles Mingus