研究紹介|坪井敬文

マラリア研究部門 教授 坪井敬文
マラリア研究部門 教授 坪井敬文

0.自己紹介
私がどのような研究をしてきたのか、いま何をしていて、これから何をしたいのか、紹介したいと思います。

1.マラリア研究との出会い
私は愛媛大学医学部の第二期生として1980年に卒業し、内科医を目指していました。その後、寄生虫学の研究を開始し、色々な寄生虫の研究を行った後、1990年にマラリアの研究を始めました。なぜマラリアだったのでしょうか?それは、寄生虫研究の対象として、グローバルで非常に大きな問題となっていたからです。勿論、今でもそれは変わりません。

2.ポストゲノムマラリア研究の大きな障害
マラリアはアフリカなどの熱帯・亜熱帯の国々で多くの人々を苦しめている地球規模の病気です。この病気は、マラリア原虫と呼ばれるミクロな寄生虫がヒトの赤血球の中で増えることで起こります。現在、薬の効かないマラリア原虫が世界に広がり、新しい対策としてワクチンの研究が進められていますがまだ完成していません。そこで、その研究を加速するために2002年マラリアゲノムが欧米で解読され、ワクチン研究が急加速されると誰もが確信していました。しかし、マラリアワクチンの研究に必須の「遺伝子からタンパク質」を作る段階が、大腸菌を用いたこれまでの技術ではとても難しく、「ゲノム情報はマラリアワクチン研究の突破口」という期待は裏切られてしまいました。

3.研究の特色
私たちは、愛媛で生まれたコムギ無細胞タンパク質合成法を使うことによって、マラリアのゲノム情報からタンパク質を自由自在に作ることに世界で初めて成功しました。現在までに、5400種類あるマラリア原虫の遺伝子の内、1700種類をタンパク質にすることができました。しかし、これらの中から「マラリアワクチンの種」となるタンパク質を見つけるためには、マラリア流行地に住んでいる人々の協力が不可欠です。なぜなら、流行地で生まれ育った人々の中には、マラリアに対する抵抗力が備わった人がおり、その血液中には抵抗力の基になる抗体というタンパク質が出来ているからです。つまり、私たちが最先端のバイオテクノロジーを駆使して実験室で作ったタンパク質と、マラリア流行地からはるばるやってきた人の抗体を反応させることで、「マラリアワクチンの種」を探すことが可能となるわけです。現在、アジア・アフリカ・太平洋の島々のマラリア流行地からたくさんの人々の抗体を頂き、新しい「ワクチンの種」探しを進めています。また、このようにして見つかった「マラリアワクチンの種」となるタンパク質に関しては、それがマラリア原虫にとってどのような機能を果たしているのか、一つ一つ手塩にかけて調べています。そのような研究の積み重ねは、ワクチンの働きを解明できるばかりでなく、マラリアという病気がどのようなタンパク質の共同作業でできあがっているのか、その全貌を科学的に解き明かすことにもつながると考えて研究を進めています。

4.研究の魅力
マラリアの研究と一口に言っても幅が広く、1)実験室での最先端バイオテクノロジーを駆使して病気の成り立ちをタンパク質の働きとして理解しようとする分子生物学研究、2)ワクチンや薬の開発をすすめることを目指した基礎医学・薬学的な研究、3)流行地に飛び込む中でどのような社会状況でマラリアという病気がおこるのか、またどのように対策を立てることができるのかというフィールドワーク的側面、等々があり、非常にダイナミックな研究が展開できところが大変魅力的です。つまり、一粒でいろんな味が楽しめるキャンディーにたとえることができるでしょう。私たちは、主に上で述べた1)と2)に重点を置いてこれまで研究を進めてきて、「ゲノムは解読したけれど・・・」という研究の閉塞状態を、愛媛発の新技術で突破しました。マラリア研究はこれからが旬です。皆さん、どのような味がするか一度試してみませんか?

5.今後の展望
これまで機能が判らなかったマラリア原虫のタンパク質の働きを一つ一つ解き明かすことが出来れば、マラリアという病気の仕組みの全貌が判るでしょう。また、マラリアワクチンの種探しでは世界をリードしており、これまで誰も気づいていなかったワクチンの種を見つけることができつつあります。それらのなかでより有望なものは、ワクチン開発の専門家と共同で開発に向けて応用研究を進めることが出来ればと考えています。

6.新メンバー募集中
地球上に人類が登場して以来、マラリア原虫と人の関わり合う歴史は長く、どうしてこのような関係が成り立ってきたのか考えるだけでもワクワクします。これまで余り研究が進んでこなかったタンパク質という覗き窓からマラリアを多角的に眺めることで、マラリアの謎が解けることを確信しています。しかし、マラリア原虫もしたたかで、その本性を簡単には現さないでしょう。夢を大きく持ち、失敗を恐れず、粘り強く汗をかき、その中で、人生を揺るがす大きな「出会い」が訪れるでしょう。一緒に研究をエンジョイしようではありませんか。